
ファ、ファイナンシャル・インディ…. FIREってなんか難しそうだね~
最近よく耳にする「FIRE(ファイア)」とは、一言でいうと 「経済的自立と早期退職」 を目指す生き方です。つまり、働かなくても生活できるだけの資産を築き(経済的自立)、できるだけ若いうちに会社勤めをリタイア(早期退職)しようというムーブメントです。貯蓄と資産運用によって十分な収入源を確保し、自由な時間を手に入れようという考え方ですね。
本記事では、FIREの成り立ちから具体的な種類、そして目指し方やリスクに至るまで、初心者にも分かりやすく解説します。難しい言葉には(注)を付けて補足しつつ、カジュアルな語り口で進めていきます。それではさっそく見ていきましょう。
1. FIREの由来と誕生
FIREの語源は「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を組み合わせたもので、アメリカで生まれた造語です。直訳すると「経済的自立、そして早期にリタイアする」という意味になります。では、この考え方はどのように誕生し、広まっていったのでしょうか?
FIREという考え方の誕生背景
FIREの原点の一つと言われているのが、1992年にアメリカで出版された書籍『Your Money or Your Life(邦題:お金か人生か)』です。著者のヴィッキー・ロビンとジョー・ドミンゲスはこの本の中で「十分な投資収入があれば働く必要はない」という考え方を提唱しました。当時は早期退職と言えば、よほどの大金持ちか大成功者でないと現実的でないと考えられていました。しかし、この本が示した「資産運用で生活費をまかなう仕組み」を実現すれば、普通の人でも早期退職が可能になる――これが現在のFIREムーブメントの源流になったのです。
さらに著者たちは「お金を使うときは、その支出に何時間分の労働時間を費やしたかを考えよ」というメッセージも伝えました。これは支出を人生の時間と照らし合わせて見直す考え方で、FIREの思想に大きな影響を与えています。
広がり始めたFIREムーブメント
書籍で土台が築かれたFIREですが、すぐに大ブームになったわけではありません。2000年代後半から2010年代に入り、アメリカの若い世代を中心に徐々に注目を集めていきました。その火付け役となったのが、「Mr. Money Mustache(ミスター・マネー・マスタッシュ)」という個人ブログです。ブロガーのピート・アデニー氏はソフトウェアエンジニアとして高給を得ていた30歳のときに、約60万ドル(当時約7500万円)の資産を築いて夫婦で仕事を辞めました。彼はブログで「60万ドルを年利4%で運用すれば、働かなくても生活費を賄える」と具体的な数字を示し、この新しいライフスタイルを発信したのです。この内容が共感と憧れを呼び、インターネット上で拡散されてFIREムーブメントが世界的な広がりを見せました。
日本でも2010年代に入ってから徐々にFIREが知られるようになり、特にここ数年で一気に注目度が高まりました。書店にはFIRE関連の入門書や体験談の本が並び、テレビや雑誌でも特集が組まれるようになっています。実際、日経マネーの調査によれば、20~30代の個人投資家の約20%が投資の目的として「早期リタイア(FIRE)」を挙げたというデータもあります。かつては「何それ?」と言われたFIREですが、今や若い世代を中心に夢ではなく具体的な目標として語られるようになってきたのです。
2. FIREの基本概念
それでは、FIREの基本となる「経済的自立」と「早期リタイア」とは具体的にどういう意味でしょうか? ここではFIREの考え方と、そのメリット・デメリットを見ていきましょう。
経済的自立と早期リタイアとは?
経済的自立とは簡単に言えば、働かなくても生活できる状態を指します(注:資産収入などで生活費を賄える状態)。つまり生活に必要なお金を給与に頼らず、自分の資産からの収入(投資の利益や不労所得など)だけでまかなえる状態です。一般的なサラリーマンであれば、毎月の給料がないと家賃や食費を払えなくなってしまいますが、経済的自立が達成できれば仕事を辞めても生活していけるわけです。
一方、早期リタイアとは通常の定年(60~65歳)よりもずっと若いうちに仕事を辞めてしまうことです(注:明確な定義はありませんが、30~40代や50代前半でリタイアするケースが多いです)。例えば「40代で会社を退職し、その後は趣味に生きる」といったライフプランはまさに早期リタイアですね。
FIREでは、この「経済的自立」と「早期リタイア」を同時に実現することを目指します。ポイントは、単に早く退職するだけでなく、退職後も資産運用による収入で生活できるようにしておくという点です。従来の早期退職は、退職後は貯金を切り崩して生活するしかなく、「よほどの資産家でもない限り難しい」と思われていました。しかしFIREでは、生活費以上の収入を生む資産を築いてからリタイアするため、必ずしも億万長者でなくても可能だと言われています。例えば、マイホームや車、ブランド品などにお金をかけない質素なライフスタイルであれば、何十億円もの資産がなくても十分に早期リタイアが実現できるというわけです。
さらにFIREの考え方では、「お金そのものを目的とするのではなく、自分らしい生き方や豊かな時間を得ること」に重きが置かれます。極端な倹約生活に耐えるのも、決してお金を貯め込むこと自体が目的ではなく、「経済的な不安から解放されて、本当にやりたいことに時間とお金を使うため」だという点が特徴です。
FIREのメリット
FIREを目指すことで得られるメリットには、例えば以下のようなものがあります。
- 自由な時間が増える:会社に縛られず、自分の好きなことに時間を使えるようになります。趣味に没頭したり、旅に出たり、家族との時間を大切にしたりと、人生の選択肢が大きく広がるでしょう。毎日が夏休み…とまではいかなくとも、少なくとも平日に「今日は何をしようかな」と自分で決められる生活は魅力的ですよね。
- ストレスからの解放:満員電車での通勤や長時間労働、人間関係のストレスなど、働き続ける上で避けられないストレス要因から解放されます。「生活のために嫌な仕事を続ける」状態を抜け出せるのは精神的なメリットが大きいでしょう。
- 心身の健康改善:十分な睡眠時間や運動の時間が確保できるため、健康的な生活を送りやすくなります。また、仕事のストレスが減ることでメンタルヘルスにも良い影響が期待できます。実際にFIREを達成した人の中には「会社員時代より体調が良くなった」という声もあります。
- 新たな挑戦ができる:生活のために稼ぐ必要が減ることで、収入を気にせずに新しい仕事やプロジェクトに挑戦する余裕が生まれます。中には早期退職後に起業したり、ずっとやりたかった分野でボランティアやクリエイティブ活動を始めたりする人もいます。FIREは「働かない」ことがゴールではなく、「お金のために無理に働かなくていい状態」を作ることだと言えます。
FIREのデメリット
一方で、FIREにはデメリットや注意すべき点も存在します。万人にとって夢のライフスタイルかというと、必ずしもそうではないのです。
- 収入面の不安:仕事を辞めるわけですから、基本的に給料収入は無くなります。景気の変動で資産が目減りしたり、予想外の出費が重なったりすると、「このまま資産が減り続けたらどうしよう」という不安と常に向き合うことにもなります。計画通りに資産運用がいかない可能性もあり、経済的なリスクはゼロではありません。
- 社会とのつながりが希薄になる:仕事を辞めると、職場というコミュニティから離れることになります。で指摘されているように、会社以外に人間関係が無い人や仕事に生きがいを感じている人にとっては、リタイア後に張り合いを失って孤独感を感じる可能性があります。実際、平日の昼間に自分だけ暇でも友人は皆働いている…となると少し寂しいですよね。趣味や地域活動など、新たな繋がりを自分で作る意識が必要になるでしょう。
- 再就職のハードル:もしFIRE後に「やっぱり働きたい」「資産が減ったので働かねば」となっても、一度仕事を離れるとブランク(空白期間)ができるため再就職が難しくなる場合があります。特に若いうちにリタイアすると同世代よりキャリアが途切れてしまうため、復帰したい時に希望の職に就けないリスクは考えておかなければなりません。
- 節約生活へのストレス:FIRE達成の鍵は支出を抑えることですが、極端な節約生活を長年続けるのは簡単ではありません。もともと倹約が苦手な人には精神的な負担が大きく、「こんな我慢をするために早期退職したのか?」と本末転倒になりかねません。また、リタイア後もずっと質素な暮らしを強いられるなら、それはそれでストレスになるでしょう。
- 資産管理の手間:仕事を辞めた後も、自分の資産を運用し続ける必要があります。投資先の見直しやリバランス(資産配分の調整)など、お金と一生付き合っていく覚悟が必要です。金融や経済の情報にもアンテナを張り続けなければならず、「お金の勉強から解放されるわけではない」点には注意しましょう。
- 想定外の事態:家族の病気や介護、自身の大病など、人生には予期せぬ出費がつきものです。若くしてリタイアすると公的年金や保険からの支援が少ない時期が長くなるため、そうした事態に備える必要があります。充分な緊急資金を確保しておかないと、一発で計画が狂ってしまうリスクもあります。
このように、FIREには光と影の両面があります。「仕事から解放されたい!」という気持ちだけで飛びつくのではなく、現実的なシミュレーションと自己分析が欠かせません。ただし、デメリットへの対策をしっかり講じれば、FIREの恩恵を享受しながらリスクを最小限に抑えることも可能です。次のセクションからは、具体的なFIREのスタイルや目指し方について見ていきましょう。
3. FIREの種類
一口にFIREといっても、実はいくつかバリエーションがあります。人それぞれ理想の生活水準や働き方への考え方が違うため、自分に合ったスタイルのFIREを選ぶことが大切です。ここでは代表的な4つのFIREの種類を紹介します。
リーンFIRE(Lean FIRE)
リーンFIREは、極力お金をかけないミニマルな生活で早期リタイアを実現するスタイルです。英語の“Lean”が「無駄がない、引き締まった」という意味であることから名付けられました。必要最低限の支出で生活し、それを資産収入だけで賄える状態を目指します。
具体的には、年間の生活費をできるだけ小さく抑えることで、その分必要な資産額も少なくて済みます。例えば「年間生活費を約250万円に切り詰め、その支出を資産の取り崩しや投資収益でまかなえる状態」がリーンFIREの一つの目安です。アメリカの例ではリーンFIRE達成者の中には年間2.5万ドル(約300万円)以下で生活する人も多く、必要とする資産も比較的少額です
リーンFIREのメリットは、贅沢をしない分だけ早期に経済的自立を達成しやすいことです。必要な資産額が小さくて済むので、平均的な収入の人でも頑張り次第で手が届きます。ただし、その分リタイア後もかなり質素な生活を続ける覚悟が要ります。「節約の達人」のようなストイックさが求められるスタイルと言えるでしょう
ファットFIRE(Fat FIRE)
ファットFIREは、リーンFIREとは対照的に現役時代と同等かそれ以上の豊かな生活水準を維持しながら早期リタイアするスタイルです。英語の“Fat”が「豊満な、贅沢な」という意味であることから名付けられました。つまり「贅沢を含めた生活費すべてを、資産収入だけでまかなえる状態」がファットFIREです。
例えば、海外旅行や高級レストランでの外食なども含めて年間支出が500万円かかる人なら、その500万円すべてを不労所得(配当金や不動産収入など)で賄えるようにします。必要な資産額はリーンFIREに比べて格段に大きくなりますが、リタイア後も生活水準を落とす必要がないのが最大の魅力です。
ファットFIREを実現するには高収入である程度贅沢をしながらも、それ以上に倹約と投資で資産を積み上げる必要があります。例えば年収の高い専門職の人が、人並み以上に貯蓄・投資して資産を築く…といったケースです。ハードルは高いですが、「引退後も妥協せず豊かに暮らしたい」という人にとっては理想的なFIREでしょう。ちなみに「住宅ローンも全額繰り上げ返済し、配当金だけで高級車に乗って暮らす」といった生活ができれば、まさにファットFIRE達成と言えます。
バリスタFIRE(Barista FIRE)
バリスタFIREは、「完全なリタイア」と「現役フルタイム労働」の中間に位置するスタイルです。早期退職後、資産運用収入に加えて短時間の労働による収入も得ながら生活する形をとります。英語でコーヒーを淹れる店員を意味する“Barista”が名前の由来ですが、これは米国でスターバックスのバリスタ(パートタイム店員)として働くことで医療保険を確保する人々がいたことにちなんでいます。早期リタイア後にスタバでアルバイトしつつ、配当金で暮らす――そんなユニークな実例から広まった言葉なんですね。
バリスタFIREでは、週5日のフルタイム勤務は辞めつつ、週2~3日程度のパートタイム労働で不足分の収入を補うような生活スタイルになります。たとえば年間生活費が300万円かかるところ、資産からの収入では200万円しか生み出せない場合、その不足分の100万円を月々数万円のアルバイトで稼ぐ、というイメージです。資産収入だけでは少し足りないけれど、少し働けばカバーできるという状態ですね。
このスタイルのメリットは、完全に働かない状態に比べて心理的・経済的な安心感が得られることです。適度に社会と関わり収入もあるため、孤独感や収入ゼロの不安を和らげられます。また健康保険など社会保険の恩恵も(パートタイムでも条件を満たせば)受けられる場合があります。逆にデメリットとしては、やはり多少なりとも働く必要があるため「完全な自由」というわけではない点です。ただ、「週に数日好きなカフェでバイトするくらいならむしろ楽しそう」という人には向いているでしょう。
サイドFIRE(Side FIRE)
サイドFIREもバリスタFIREと同様、半分リタイアしつつ半分は働くスタイルです。違いは、サイドFIREでは自分の好きな副業やフリーランスの仕事で収入を得ることに重きを置く点です。いわば「好きなことを仕事にしながらFIRE」すると言えるでしょう。
具体的には、投資や貯蓄による収入で生活費の大部分をまかないつつ、不足分や娯楽費を自分のペースの仕事で稼ぐイメージです。たとえば「普段は趣味を生かしたネットショップを細々と運営し、必要なときだけ収入を得る」「週に数日は自分のカフェを開いて、残りは悠々自適」といった暮らし方が考えられます。ポイントは、働くにしても雇われではなく自分の裁量でできる仕事を選ぶことです。これにより、経済的自立に近い状態を維持しながらも社会とのつながりや生きがいを確保できます。
サイドFIREは完全なFIREより現実的に実現しやすく、かつ自分らしさも発揮できるため、近年人気が高まっています。無理にぜいたくをしない質素な生活や節約の工夫は必要ですが、それは将来の自由時間を手に入れるための投資とも言えます。「フルタイム勤務は辞めたいけど、社会との関わりも欲しい」という人にとって、サイドFIREは魅力的な選択肢でしょう。
以上、リーンFIRE、ファットFIRE、バリスタFIRE、サイドFIREの4つを紹介しました。この他にも、資産運用の複利効果で時間とともにFIRE達成を狙う「コーストFIRE」なんて言葉もありますが、日本でよく言われるのは上記の4種類です。自分はどのタイプに当てはまりそうか、想像しながら読むと具体的なイメージが湧きやすいかもしれません。
4. FIREを目指す目的と実現方法
では、なぜ最近これほど多くの人がFIREを目指すようになったのでしょうか? その背景と、実際にFIREを達成するためには具体的にどう行動すればいいのかを解説します。
なぜFIREを目指す人が増えているのか?
FIREが注目されるようになった背景には、時代と人々の意識の変化があります。いくつか主要なポイントを挙げてみましょう。
- 人生100年時代の到来:平均寿命が延び、「人生は長いのだから働くだけでなく充実した時間を持ちたい」という考えが広まっています。「老後はゆっくり」ではなく、「若いうちから人生を楽しもう」という価値観へのシフトです。
- 働き方への不満・見直し:長時間労働や将来への不安から「このまま定年まで働き続けるのか…」と疑問を感じる人が増えました。「仕事のための人生ではなく、人生のための仕事にしたい」と考える人が増え、FIREが一つの解決策として映ったのでしょう。
- コロナ禍での変化:2020年以降の新型コロナウイルス流行により、リモートワークの普及や働き方の見直しが進みました。その結果、「会社に行かずとも生活できるならこのまま自由になりたい」「地方移住してスローライフを送りたい」といった希望を持つ人が増え、FIREへの関心も一気に高まったようです。
- 経済的自立への憧れ:若い世代を中心に「お金に縛られない人生」を理想とする声もあります。特に投資ブームも相まって、「資産運用でお金を増やし、嫌な仕事から早く卒業したい」というモチベーションがFIRE人気の裏にはあります。実際、20~30代投資家の約2割が早期リタイアを目標に掲げているという調査結果もあり(前述)、若年層に広くFIRE志向が浸透してきています。
- 自己実現志向:単に「会社が嫌だから辞めたい」という消極的な理由だけでなく、「本当にやりたいこと(趣味や夢)に専念したい」「家族との時間を最優先したい」といった前向きな目標からFIREを目指す人も多いです。例えば「子供が小さいうちに一緒に過ごす時間を確保したいから40代でリタイアしたい」というようなケースですね。
このように、人それぞれ細かな理由は異なりますが、「時間と選択肢の自由を手に入れたい」という点で共通しています。FIREはまさにその自由を得る手段として、現代の多くの人々の心を捉えていると言えるでしょう。
FIREを達成するための具体的な方法
それでは、FIREを実現するためには具体的にどのようなステップや工夫が必要なのでしょうか?ポイントを整理すると、「収入を増やし支出を減らして、その差額を投資に回す」というシンプルな構図になります。言葉にすると当たり前ですが、実践するには計画と継続が肝心です。以下に主なポイントをまとめます。
- 支出を減らす(徹底した節約)
FIRE達成には高い貯蓄率が求められます。まずは日々の生活費を見直し、無駄な支出を削りましょう。固定費(家賃・住宅ローン、通信費、保険料など)の削減効果は特に大きいです。例えば、より家賃の安い地域に引っ越したり、格安スマホに乗り換えたりといった工夫です。実際、ある30代夫婦はFIREを目指す過程で生活コスト削減のため3回も引っ越しを行い、大幅な節約に成功したそうです。また、車を手放して公共交通や自転車で代用する、外食を減らして自炊中心にする、サブスクを見直す等、小さな積み重ねが大きな差を生みます。家計簿アプリなどで支出を「見える化」し、削れるものはないか常にチェックすると効果的です。 - 収入を増やす(収入アップ&副業)
節約だけでなく、収入自体を増やす努力も有効です。社内で昇進・昇給を目指したり、より高給の職種や企業に転職したりするのは正攻法ですね。また、副業で追加のキャッシュフローを得るのも手です。最近はブログやYouTube、あるいはスキルシェアサービスなど個人で稼ぐ手段も増えています。副業収入はすべて貯蓄や投資に回せば、資産形成の加速につながります(※本業に差し支えない範囲で)。例えば先ほど触れた30代夫婦の場合、妻が転職して年収が約200万円アップし、世帯年収1000万円を達成したことで貯蓄ペースが飛躍的に伸びました。このように「収入を増やし、その増えた分は生活レベルを上げずに全て貯蓄」というのがFIREへの黄金パターンです。 - 資産運用でお金に働いてもらう
節約と収入アップで生み出した余剰資金は、賢く投資して増やしていきます。FIRE達成にはこの資産運用が欠かせません。典型的な方法としては株式への長期投資があります。中でも近年支持されているのがインデックス投資(注:日経平均株価やS&P500など市場全体の指数に連動する投資信託を定期的に積み立てる手法)です。インデックスファンドは低コストで分散が効いており、長期的に市場平均の成長を取り込めるため、FIREを目指す多くの人が活用しています。歴史的に見ると、米国株式市場は年平均5~7%程度のリターンを生んできたと言われますので、そこにコツコツ投資すれば「雪だるま式」に資産が増えていく計算です(もちろん元本保証ではないので注意は必要ですが)。また、個別株で高配当株を買い、配当金を再投資しつつ将来的には配当収入で暮らすという戦略をとる人もいます。その他には不動産投資も代表的ですね(注:マンションやアパートを購入し賃貸収入を得る手法)。不動産は初期資金やローンなどハードルが高めですが、毎月安定した家賃収入が得られれば強力な不労所得源になります。ただし空室リスクや修繕コストもあるので、株式投資と並行して行う人も多いです。重要なのは「長期・分散・低コスト」の投資を続けることです。短期的な値動きに一喜一憂せず、淡々と積み立てることで資産形成の果実を最大化できます。税制優遇制度も積極的に活用しましょう。日本ではつみたてNISAやiDeCo(個人型年金)といった制度があり、長期投資を後押ししてくれます。例えばつみたてNISAなら毎年一定額まで投資信託の購入額が非課税になるので、FIREを目指すならまず活用したい制度です。これらを駆使しながら「お金にも働いてもらう」ことで、FIRE達成までのスピードが飛躍的に速まります。 - 自分のFIRE目標額(FIREナンバー)を知る
目安として、「年間生活費の25倍の資産があればFIRE達成可能」と言われます。これは「4%ルール」と呼ばれる有名な指標に基づくものです。簡単に説明すると、資産の4%を毎年取り崩して使う運用をすれば、資産の成長分で取り崩した分を補える可能性が高い、つまり元本を減らさずに長期間生活できるという考え方です。例えば年間生活費が300万円なら、その25倍の7500万円の資産が目標になります。7500万円の4%にあたる年間300万円を取り崩して生活費に充てても、資産自体は大きく目減りしにくいという計算です。もっとも、この4%ルールはあくまで過去の実績に基づく概算の指標であり、絶対的な保障はありません。特に20代・30代でFIREする場合、30年以上という長いリタイア期間をカバーする必要があるため、4%では心許ないとの意見もあります。そのため「安全策として3%ルール(年間支出の33倍の資産)」を採用する人もいます。自分の目指す生活レベルやリスク許容度に応じて、このFIRE目標額は柔軟に考えてください。ポイントは「いくら貯めれば自分は安心してリタイアできるか」を具体的な数字で把握することです。 - 計画とモチベーションの維持
FIREまでの道のりは長期戦です。途中でモチベーションが下がらないように、進捗を確認しながら計画をアップデートしましょう。年間貯蓄額や運用成績をチェックし、「今年は順調に資産が増えた!」と自分を褒めるのも大切です。SNSやブログでFIRE仲間と情報交換するのも励みになります。また、想定より資産形成が遅れているなら副業を強化する、逆に順調ならリタイア時期を早めるといった調整もしましょう。環境やライフイベントの変化(結婚や出産など)にも計画を適宜適合させていく柔軟性が必要です。
以上のポイントを地道に積み上げていけば、FIREの現実味がぐっと増してきます。実際にFIREを実現した人の例として、冒頭でも触れた30代のある日本人夫婦が参考になります。この夫婦(グミさん/パンさん夫妻)は、結婚当初にあった約750万円の貯蓄を元手に、約10年間で資産を1億2000万円超まで増やし、30代後半にしてセミリタイアを達成しました。その秘訣は「支出の徹底見直し」と「米国株中心の積極的な資産運用」です。なんと手取り収入の約2/3を投資に回すというストイックな貯蓄・運用を続けた結果、資産が雪だるま式に増えていったのです。2021年に資産1.2億円に達した時点で、ご主人は会社を退職しセミリタイア生活に踏み切りました(当初2億円貯めて完全リタイアする計画でしたが、シミュレーションの結果「この額でもゆるいFIREなら問題ない」と判断したそうです)。このように、日本でも工夫次第でFIREは十分達成可能であることが分かります。
もちろん、全員がこの夫婦のようにうまくいくわけではありませんし、途中で計画変更することもあるでしょう。しかし「収入-支出」を最大化して投資に回すという基本原則は共通です。地道な節約と投資を積み重ねることが、FIREへの確実な一歩一歩となります。
5. FIREのリスクと注意点
ここまでFIREの魅力や方法について語ってきましたが、実際にFIREを達成・継続するにあたっては様々なリスクや注意すべきポイントがあります。楽しい面ばかりでなく、現実的な落とし穴もしっかり把握しておきましょう。
経済面での落とし穴:市場変動・インフレ・税金など
①市場の変動リスク:資産運用には付きものですが、株式市場や不動産価格の大きな変動はFIRE計画に大きく影響します。例えばリタイア直後に金融危機や暴落が起き、資産評価額が大幅に下がってしまったら、予定通りの取り崩しが難しくなるかもしれません。実際、リタイア前にインフレ(物価上昇)や弱気相場が来ると計画通りにいかず調整を余儀なくされる可能性があると指摘されています。FIRE達成後も数十年という長期にわたって資産を維持する必要があるため、一時的な市場の乱高下に耐えられるよう余裕を持った資産設計が重要です。
②インフレ(物価上昇)リスク:仮にリタイア時に十分な資産があっても、その後のインフレで生活費が上昇すると計算が狂う恐れがあります。例えば年間300万円で暮らせていたのが、10年後には同じ生活水準でも350万円必要…ということも起こりえます。特にここ数年は世界的にインフレ率が高まっており、将来の物価上昇には注意が必要です。対策として、運用利回りをインフレ率以上に保つこと(インフレ調整後でも資産が目減りしない運用を目指す)が挙げられます。具体的には株式や不動産などインフレに強い資産をポートフォリオに入れておくことや、取り崩し率を柔軟に調整することが有効です。
③長寿リスク(資産寿命リスク):幸運にも長生きできた場合、その分資産が尽きるリスクも高まります。特に20~30代でFIREした場合、50年以上生活費を賄う必要があり、「4%ルール」では不安という声もあります。先述のように3%ルールやそれ以下で設計したり、ある程度年を取ったら公的年金も頼りにするなど、長寿化に備えた計画が必要です。場合によっては「一生働かない」ではなく「70歳くらいで年金生活に移行するから、それまでのブリッジとして資産を使う」といった柔軟な戦略も検討しましょう。
④税金・社会保険のリスク:仕事を辞めると収入が無くなる代わりに所得税は減りますが、資産運用益には引き続き税金がかかります。日本では株や投信の売却益・配当に約20%の税金が課せられるため、思ったほど手取り収入が残らないこともあります。また退職後は会社員時代の厚生年金から国民年金に切り替わり、自分で保険料を払う必要があります。健康保険も会社の社会保険から国民健康保険に変わり、加入者本人が全額負担です。年金や健康保険の負担額は退職時の収入によって決まるので、FIRE直後数年は意外と支出がかさむかもしれません。このように税金や社会保険料も計算に入れておかないと、「予定より毎月手元に残るお金が少ない!」という事態になりかねません。
⑤為替・金利リスク:海外資産に投資している場合は為替変動も影響します(円安・円高で資産評価額や配当の円換算額が変わる)。また、インフレ動向によって金利が上がると株式市場に影響したり、変動金利の住宅ローンを借りている場合は支払いが増えることもあります。こうしたマクロ経済的な動きにも注意を払い、場合によっては資産配分を見直すことも必要でしょう。
FIRE後の生活での注意点:生活変化と心構え
経済面のリスクに加えて、FIRE達成後の生活そのものに関する注意点も見ておきましょう。仕事を辞めて自由の身になった後、意外なところに落とし穴が潜んでいることがあります。
①アイデンティティの喪失・孤独感:長年働いてきた人ほど、「会社員でなくなる自分」に戸惑うことがあります。会社での肩書きや役割がアイデンティティの一部になっていた人は要注意です。また、平日の昼間に一人で過ごす時間が増えるため、人によっては孤独を感じるかもしれません。
会社勤めのときは毎日誰かと顔を合わせていたのが、リタイア後は自分から動かないと人と会わなくなります。実際、50歳でFIREしたある男性Yさんは、リタイア後に「会社帰りに同僚と飲みに行く」といった機会がなくなり、次第に周囲とのコミュニケーションが激減してしまったそうです。周りの友人たちがまだ働いている年齢だと、話の共通項が減り疎遠になるケースもあります。
この対策としては、趣味のコミュニティに参加する、家族や地元の友人との交流を増やす、あるいはボランティアや地域活動に加わるなど、自分なりの居場所を作ることが大切です。
②生活リズムの崩れ・健康問題:働かなくなると生活のメリハリが失われ、「毎日が日曜日」状態になります。自制心がないと夜更かしや昼夜逆転を招き、体調を崩す恐れがあります。
また通勤や仕事で動いていた分の運動量が減ることで、健康面に悪影響が出るケースもあります。先述のYさんは、リタイア後に外出する機会が減り運動不足となって体調を崩し、腎不全を患ってしまったとのことです。会社員時代は定期的に受けていた健康診断も受けなくなり、発見が遅れた側面もあったようです。
FIRE後は意識的に運動習慣を取り入れたり、健康診断や人間ドックを怠らないようにしましょう。時間はあるはずなので、自分の健康管理もしっかり「仕事」としてスケジュールに組み込むくらいの気持ちが必要です。
③支出増加の可能性:リタイア後はむしろお金を使う時間が増えるため、計画以上に支出が増えてしまう人もいます。暇を持て余してついネットショッピングに散財…なんてことになったら本末転倒ですよね。また、想定外のライフイベントで支出が膨らむこともあります。例えばYさんの場合、住んでいたアパートの老朽化で引越しを余儀なくされ、新居の家賃が上がった結果、月々の生活費が当初予定より増加してしまったそうです。
このように、自分ではコントロールしづらい要因で出費が増える可能性もあるわけです。対策としては、FIRE後も定期的に家計を見直し「どこにお金が流れているか」を把握すること、必要に応じて支出を引き締め直すことが大切です。予備費用やバッファとなる資金も多めに確保しておくと安心です。
④モチベーションの低下:毎日が自由になる反面、「何をしたら良いか分からない」と燃え尽き症候群のようになるケースもあります。特に目標達成型の人は、FIREそのものがゴールだったために、いざ辞めてしまうと次の目標を見失ってしまうことがあります。「せっかく自由になったのに、だらだらと無為に過ごしてしまって自己嫌悪…」という声も聞かれます。これを防ぐには、FIRE後にやりたい具体的なプランや趣味を持っておくことです。リタイアは人生のゴールではなく新しいスタートでもあります。「小説を書いてみる」「畑をやってみる」「世界一周旅行する」何でも良いのでワクワクする計画を立てましょう。それがFIRE達成までのモチベーション維持にもつながります。
⑤家族への影響:自分がFIREを決意しても、家族、とくに配偶者がいる場合は相手の理解と協力が不可欠です。夫婦で価値観が合わずトラブルになるケースもあります。お金の使い方や将来の生活像について十分に話し合わないまま「俺は会社を辞める!」と実行すれば、パートナーに不安を与えてしまうかもしれません。逆に言えば、家族も一緒にFIREを目指す「チーム」として協力できれば心強いです。実際、前述の30代夫婦も結婚当初はお金の価値観が合わずケンカも絶えなかったそうですが、何度も話し合い共通の目標を定めたことで二人三脚で資産形成に励むことができたといいます。家族がいる方は、自分だけでなく家族にとっての最適解を探る意識を忘れずに。
FIRE達成者の実例に学ぶ
ここで、実際にFIRE(あるいは準FIRE)を達成した人の実例を2つご紹介しましょう。一つは成功例、もう一つは苦労している例です。先人の体験から、良い点・悪い点を学んでみます。
- 成功例:30代で1億円以上を築きセミリタイアした夫婦
→ 先ほども触れたグミさん/パンさん夫妻のケースです。このお二人は地方で質素な暮らしを送りつつ、共働きで収入を増やし、支出は徹底的に削減、その分を米国株などに投資して資産を増やしました。結果として、子育て中の30代後半で夫が仕事を辞め、妻も柔軟な働き方に切り替えて家族との時間を満喫する生活を手に入れています。彼らは完全なFIRE(仕事ゼロ)ではなくサイドFIRE寄りの選択をしていますが、それゆえ経済的にも精神的にも安定しており、「早期リタイア=全く働かない」にこだわらない柔軟な姿勢が功を奏した例と言えます。でも述べられているように、当初は完全リタイアを目指していた計画を前倒しし、「この資産額でも半リタイアなら大丈夫」と判断して行動に移した点が印象的です。FIRE=オールオアナッシングではなく、自分たちなりの落とし所で自由を手に入れることも十分可能だという好例でしょう。 - 苦戦例:50歳で早期退職したものの後悔している男性Yさん
→ こちらは先ほどリスクの箇所で登場したYさんです。Yさんは50歳で約4000万円の貯蓄を元に会社を早期退職しました。退職金の上乗せキャンペーンがあり「今しかない!」と決断したそうですが、リタイア後10年が経ち現在60歳を前にして大きな誤算が生じました。
主な誤算は4つあり、先ほど詳述した通り「社会との関わり減少」「運動不足と健康悪化」「予想外の生活費増加」「医療費負担の不安」です。その結果、Yさんは「FIREしたことを後悔している」とまで感じているそうです。このケースから学べるのは、事前の準備不足・想定不足が命取りになるということです。
でも指摘されているように、YさんはFIREの良い面ばかりに目が行き、辞めてから失うもの(人付き合いや運動習慣など)を深く考えていなかったことが後悔につながっています。
また、4000万円という資金設定も本人には楽観的すぎたのかもしれません。年金受給までのつなぎ資金としては十分かもしれませんが、その後の老後資金としては不安が残る額です。Yさんのケースは極端かもしれませんが、「何とかなるだろう」と安易に考えず、最悪のシナリオまでシミュレーションしておく重要性を教えてくれます。
このように、FIRE達成後の人生がバラ色になるか、思わぬ苦労が待っているかは、事前準備とその後の心構え次第と言えます。「備えあれば憂いなし」――リスクをきちんと洗い出し対策を講じておけば、FIREの魅力を存分に楽しめるでしょうし、逆に準備不足だとせっかくのFIRE生活が台無しになりかねません。
6. まとめ
FIRE(経済的自立と早期退職)は、働き方や生き方の選択肢を大きく広げてくれる魅力的な考え方です。若いうちに経済的な自由を得て、「時間のオーナー」になることは、多くの人にとって夢のような話でしょう。実際、FIREを実現すれば好きなことに思い切りチャレンジできますし、家族や自分のためにたっぷり時間を使うこともできます。お金の不安から解放されて迎える朝は、きっと晴れやかな気分に違いありません。
しかし同時に、FIREにはシビアな現実面もあります。高い貯蓄目標を達成するには地道な節約と努力が必要ですし、リタイア後の人生設計も綿密に考えておく必要があります。「思っていたのと違う…」と後悔しないために、メリットとデメリットの両方を冷静に見極め、自分に合ったスタイルでFIREを目指すことが肝心です。
幸い、FIREには様々な形(リーンFIRE、ファットFIRE、バリスタFIRE、サイドFIREなど)があり、必ずしも一括りではありません。必死に節約して完全リタイアするのが正解というわけでもなく、ゆるく働き続けるセミリタイアでもいいわけです。で述べられているように、実現性が高くチャレンジしやすいのはサイドFIREやバリスタFIREといった柔軟なスタイルでしょう。まずはそれらから検討してみるのも賢明です。実際、FIREを準備する過程自体が自分のライフプランを見直す機会にもなり、たとえ途中で考えが変わっても無駄にはなりません。
大切なのは、自分と家族にとってベストなバランスを見つけることです。FIREのゴールは人それぞれ違います。月数万円の副収入でのんびり暮らすのも一つのFIRE、多額の資産で豪華に暮らすのも一つのFIREです。「自分にとっての経済的自由」とは何かを考え、それに見合った計画を立てましょう。その計画に沿って資産寿命を延ばす方法を選択・実行していけば、自ずと理想の生活に近づけるはずです。
最後に、FIREは決して楽して一発逆転を狙うものではなく、人生と真剣に向き合った人へのご褒美のようなものだと思います。コツコツと地盤を固め、十分な準備をしてこそ掴める自由です。そういう意味では、FIREを目指すプロセス自体があなたのマネーリテラシーを鍛え、人生設計力を高め、仮に途中で方針変更しても役立つ力をもたらしてくれるでしょう。
FIREの魅力と現実を知った今、ぜひあなたなりのFIRE像を思い描いてみてください。それは完全リタイアでなくても構いません。大事なのは、お金に縛られず自分らしく生きるための選択肢を自ら作り出すことです。FIREという考え方は、そのヒントと勇気を与えてくれるはずです。あなたの人生にとって最適なFIRE(早期リタイア)の形を見つけ、充実した未来を切り開いていきましょう!