DeNA(2432)株価分析:急騰の背景と最新動向

投資・資産形成

はじめに

東証プライム上場の株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA、証券コード2432)は、モバイルゲームやスポーツ、ライブ配信など多角的に事業展開するIT企業です。本記事では、2006年から2011年にかけての株価急騰の理由、2020年3月期および2024年3月期の赤字要因、そして2024年以降の株価上昇要因2025年の成長戦略について、最新の株価指標データを交えながら詳しく分析します。最後に2025年の株価下落リスクや現時点(2025年3月5日)の投資判断についても言及します。


2006~2011年:ソーシャルゲーム旋風で株価急騰

DeNAは2006年前後から携帯電話向けソーシャルゲーム事業「モバゲー」で急成長を遂げ、株価も大きく上昇しました。2006年6月には株価639円の安値を付けましたが、その後モバゲーの成功を背景に上昇を続け、2011年8月18日には上場来高値となる4,330円を記録しています【1】。
この時期の躍進は、携帯電話(ガラケー)向けSNS「Mobage(モバゲー)」上でゲーム事業が爆発的に拡大したことが主因です。DeNAは自社開発ゲームに加えて2010年に「モバゲーオープンプラットフォーム」を導入し、外部のゲーム開発会社のタイトルも提供開始。2011年3月末までにモバゲー上で約869タイトルものゲームを提供し、多様なユーザーのニーズに応えることでゲーム関連売上が著しく成長しました【2】。当時のモバゲーはテレビCMを積極展開し、若年層だけでなく購買力の高い30代以上のユーザー獲得にも成功して平均課金額を押し上げていました。こうした業績拡大を背景に、2011年当時のDeNA経営陣は「世界No.1のソーシャルゲームプラットフォーム企業」を目標に掲げ、2015年3月期に営業利益2,000億円・売上高4,000~5,000億円(うち海外売上50%)という壮大な長期ビジョンを公表しています【3】。実際、2010年から2012年頃にかけて業績は飛躍的に拡大し、2012年3月期の連結純利益は前期比+193%増の約500億円に達しました【4】。市場はこの成長ストーリーに熱狂し、株価には高い成長期待が織り込まれました。2011年8月の高値圏におけるバリュエーションを見ると、予想PER(株価収益率)はおよそ14倍前後、実績PBR(株価純資産倍率)は約5.9倍にも達しており【4】、当時の株価がいかに成長期待で割高だったかが分かります。ただし、その後は**スマートフォン時代への移行やソーシャルゲーム規制(コンプガチャ規制)**など環境変化もあり、2011年をピークに株価は下落基調へ転じました(※2014年8月には安値1,170円まで下落)。一時代を築いたモバゲー旋風は2011年前後が最高潮だったと言えるでしょう。


2020年3月期の赤字要因:大型減損(米国ゲーム事業の失敗)

創業以来、DeNAは堅調な黒字経営を続けてきましたが、初めての大きな躓きとなったのが2020年3月期(FY2019)です。この期、DeNAは上場以来初めての通期赤字に転落しました【5】。その直接的な要因は、ゲーム事業に関連する巨額減損処理です。2019年4~12月期(2020年3月期第3四半期)までの連結決算において、DeNAは約442億円もの営業損失を計上しました【5】。損益計算書の「その他の費用」には516億円もの費用が計上されており、その内訳の大半(508億円)が減損損失でした【5】。減損とは事業価値低下による資産価値の目減りを損失として認識するものです。この減損損失の大部分はゲーム事業におけるのれん(グッドウィル)やソフトウェア資産の評価減です【5】。特に指摘されたのが、過去の米国ゲーム会社買収の失敗です。当時DeNAは国際会計基準(IFRS)を採用していたため、のれんの減損を特別損失ではなく営業費用として計上する必要があり、結果として営業赤字幅が大きく膨らみました【5】。北米のゲーム開発会社を買収したものの期待した成果が得られず、そののれんを一挙に減損処理したことが巨額赤字の主因です【6】。実際、2020年3月期には508億円もの減損損失を計上したことで最終赤字転落が確実視され、発表後に株価も急落しました【5】。この赤字転落は市場に大きな衝撃を与え、「のれんは時限爆弾」とも評される事態となりました。


2024年3月期の赤字要因:大規模な資産減損と事業ポートフォリオ再編

その後数年間、DeNAは収益規模を縮小させつつも黒字を維持していましたが、**再び大きな赤字に見舞われたのが2024年3月期(FY2023)**です。2024年3月期の連結決算は営業損失282億円と、前期(2023年3月期)の42億円黒字から大幅な赤字転落となりました【7】。この要因も一時的な特殊損失、複数事業における減損処理の計上です【7】。具体的には、2023年度中に将来採算が見込めないゲーム開発プロジェクトや買収子会社ののれんに対し減損を実施しました。主な内訳は以下の通りです【7】。

  • ゲームタイトルの減損損失:約126億円(開発中止または収益悪化のゲームに対する評価減)
  • ライブ配信アプリ「IRIAM」ののれん減損:約93億円(買収時に発生したのれんの大部分を減損)
  • 医療データ事業(データホライゾン社)ののれん減損:約36億円(買収子会社の価値見直し)
  • 日本テクトシステムズ社の減損:約20億円(ヘルスケア関連の子会社)
  • スポーツ事業関連の減損:約12億円(プロ野球球団等の資産評価減)

加えて、主要な持分法適用会社であるSHOWROOM株式会社(ライブ配信プラットフォーム)に対する出資金評価損も約59億円発生し、持分法損失として計上されています【7】。これら合計約276億円規模の減損損失が一挙に発生したことが、2024年3月期の最終赤字要因となりました【7】。背景には、従来の収益の柱であったゲーム事業の伸び悩みがあります。スマホゲーム市場は競争激化で新作が振るわず、既存タイトルのユーザー課金減少や開発費の負担増が見られました。またDeNAは近年ゲーム以外にもライブ配信やスポーツ、ヘルスケアなど新領域に積極投資しており、その中には期待通りに成長しなかったものもあったため、事業ポートフォリオの整理と「膿出し」として減損を実施したと考えられます。経営陣もこの事態を重く受け止め、2024年2月には南場智子会長ら役員報酬の一部返上を発表する事態となりました。


2024年からの株価反発:業績ボトムアウトへの期待

2024年3月期の大赤字発表を受け、DeNA株は一時低迷しました。しかし2024年を通じて市場の見方は次第に好転し、株価は急速に反発しています。2024年2月中旬には年初来安値の1,214円を付けましたが、その後わずか1年で株価は4,000円超まで約3倍に急騰し、2025年2月25日には4,093円の年初来高値を記録しました【9】。これは2011年以来約14年ぶりの高値水準です【10】。この劇的な株価回復の背景には、業績のボトムアウト(底打ち)と新たな成長シナリオへの期待があります。

実際、2025年3月期に入ってからの業績は大幅に改善しています。2024年4~12月(2025年3月期第3四半期)の連結業績は、売上収益1,167億円(前年同期比+12.1%)、営業利益209億円(前年同期は▲276億円の損失から黒字転換)、四半期純利益157億円(前年同期は▲312億円の損失から黒字転換)と大幅な増収増益となりました【8】。わずか1年前には数百億円規模の赤字だったことを考えると、驚異的なV字回復です。この好調を牽引したのがゲーム事業とスポーツ事業です。ゲーム事業では、**2024年10月にリリースされた新作スマホゲーム「Pok\u00e9mon Trading Card Game Pocket」**が大ヒットし、短期間で業績を大きく押し上げました【8】。人気IPであるポケモンのトレーディングカードゲームをスマホ向けに展開したことで、国内外のユーザーを獲得し収益貢献しています。スポーツ事業(プロ野球・横浜DeNAベイスターズ関連)も絶好調で、チームが2023年シーズンにクライマックスシリーズを勝ち抜き日本シリーズ進出を果たしたことから観客動員数が大幅増加し、チケットや関連グッズ売上が伸びました【8】。コロナ禍で制限のあった観客入場が正常化した反動増もあり、スポーツ事業の2024年3月期売上は前年同期比+30%増、セグメント利益も黒字転換しています【7】。これらゲームとスポーツの躍進により、DeNA全体の業績が大きく好転したのです。

一方でライブ配信事業(PocochaやIRIAM)は戦略を転換し、ユーザー数拡大より収益性重視の運営へとかじを切りました。2024年4~12月期のライブ配信事業売上は前年同期比▲5.1%と若干減収でしたが、大胆なコスト見直しによりセグメント損益は赤字から黒字へ改善しています【8】。具体的には広告宣伝費や海外展開投資を適正化し、収益性を確保する戦略に移行しました。こうした事業の選択と集中も奏功し、減損処理でスリム化した後のDeNAは収益力を取り戻しつつあると評価されています。市場はこの業績改善をいち早く織り込み、「減損で膿を出し切ったことで利益成長軌道に戻る」との期待感から株価が急騰したと考えられます。
また低迷時にはPBR0.8倍程度まで低下していた株価指標が見直され、2025年にはPBRが1.7倍前後まで回復し企業価値が再評価されました【16】。加えて、DeNAが2023年以降発表した新たな事業戦略(後述)も投資家心理を明るくし、中長期の成長期待が高まっています。


2025年の株価上昇要因:多角化する成長戦略と新規事業

2025年に入り、DeNAの株価はさらに上値追いの展開となっています。その背景には、明確化された成長戦略と複数の事業ドライバーが存在します。ここではゲーム、ライブ配信、スポーツといった主要事業ごとの成長戦略と、今後の注力分野について見ていきましょう。

ゲーム事業:強力IPと海外展開で再成長

ゲーム事業は依然としてDeNAの収益の柱であり、今後の成長において最も重要なドライバーです【11】。近年の「Pok\u00e9mon TCG Pocket」のヒットに象徴されるように、DeNAは大手IP×基本無料(F2P)モデルを強みにユーザー獲得を図る戦略を鮮明にしています。過去にも『ポケモンマスターズEX』や『逆転オセロニア』などIPを活用したヒット作を生み出しており、今後も人気IPホルダーとの協業による新作タイトル投入を積極化していく計画です【11】。具体的には**ポケモンIPの更なる拡張(新コンテンツ追加やグローバル展開)**や、他の大型IPとのコラボレーションによって既存ファン層を取り込み収益拡大を狙います【11】。またスマホゲームに留まらず、コンシューマー向けゲーム開発(据え置き機やPC)への展開も視野に入れており、新しいプラットフォームでの収益機会にも挑戦する構えです【11】。

加えて、海外市場の開拓もゲーム事業の重要テーマです。国内でヒットしたタイトルを武器に、北米やアジア(中国・東南アジアなど)への積極展開を進めています【11】。特にポケモンのような世界的人気IPは海外でも集客力が高く、基本無料+アイテム課金モデルとの相性も良いため、北米市場での収益貢献が期待されています【11】。もっとも、中国市場は巨大なポテンシャルがある一方で規制リスクが高いため、現地パートナー企業(テンセントなど)との協業による慎重な展開を図るとしています【11】。DeNAは各地域ごとにデータ分析に基づく最適なマーケティング戦略を実施し、ローカライズや運営体制を現地ニーズに合わせることで海外ユーザー基盤の拡大を狙っています【11】。

ライブ配信事業:収益性重視と技術革新

ライブ配信(ストリーミング)事業では、「Pococha(ポコチャ)」や「IRIAM(イリアム)」といったサービスを展開しています。2024年に方針転換したように、現在はユーザー数の拡大よりもARPU(ユーザーあたり収益)の向上による収益最大化に重心を置いており、これをさらに進化させる戦略です【12】。具体的な施策としては、投げ銭(ギフティング)や月額課金の価格設定や機能を最適化してユーザー単価を引き上げること、人気配信者を優遇・支援するプログラムで流出を防ぎコンテンツ力を維持すること、さらに将来的には広告収入モデルの導入も検討しています【12】。こうしたマネタイズ強化策によって、ライブ配信事業の利益貢献を高めていく方針です。

同時に、技術革新と他サービスとの連携によってライブ配信事業のユーザー体験向上も図ります。【AIの活用】はその一例で、配信内容の自動分析によるレコメンデーションや、不適切内容の検知などにAIを用いて配信者・視聴者双方の満足度を高める取り組みを進めています【12】。さらにメタバースやVR技術との融合にも注力し、仮想空間上でのイベント開催やVTuber的な取り組みで新たなファン体験を創出することも視野にあります【12】。加えて、自社のゲーム事業やeスポーツとのシナジーも模索しており、ゲーム実況や大会配信を通じてライブ配信の利用シーンを広げる戦略です【12】。

スポーツ事業:ファン拡大とデジタル活用

スポーツ事業(横浜DeNAベイスターズおよびBリーグ横浜ビー・コルセアーズなど)は、地域密着型の事業でありつつデジタルトランスフォーメーションの余地が大きい分野です。DeNAは**「スポーツ×IT」で球団経営の近代化**を推し進めており、以下のような成長戦略を掲げています【13】。

  • スタジアム観客動員数の最大化 – 試合観戦自体のエンタメ価値向上(演出強化や座席サービス向上)、ファンクラブ会員施策、ダイナミックプライシング導入などでファン体験を強化し、来場者数を増やす【13】。実際、横浜スタジアムでは2016年以降段階的に増築・改修が行われ、座席数拡大や快適性向上が図られており、2023年にはコロナ前の水準を超える集客を達成しています【7】。
  • グッズ・メディア事業の拡大 – 試合観戦以外からの収益拡大策として、チームグッズ販売や映像配信、SNSなどデジタル施策を強化し、オフラインとオンライン双方でファンからの収益機会を広げる【13】。
  • 球団経営へのデータ活用 – 選手やチームのパフォーマンス向上のため、AIやIoTを活用したトラッキングデータ分析や栄養管理・コンディショニングの科学的アプローチを導入し、戦績向上につなげる【13】。

スポーツ事業は伝統的に大きな利益を生みにくい分野ですが、上記のようにIT企業ならではの視点で収益構造を改革しつつあり、実際に**2023年はベイスターズがクライマックスシリーズを勝ち上がる好成績もあって事業セグメント利益21億円を計上(前期はほぼ収支トントン)**するなど成果が出始めています【7】。今後もファンコミュニティ拡大と収益多角化を進め、スポーツ事業を地域貢献と収益性の両立するモデルケースに育てていく方針です。

新規事業・テクノロジーへの挑戦

DeNAは上記の主力事業に加え、ヘルスケア・メディカル事業や新規のITサービスにも取り組んでいます。ヘルスケア領域では、オンライン診療や健康管理アプリなどを展開するアルム社や、医療データ分析のデータホライゾン社を2022年に相次いで子会社化し、医療×ITで中長期の成長機会を狙うポートフォリオ構築を進めました【7】。足元では先行投資負担もあり赤字事業ですが、高齢化社会に向けた医療DX需要を捉えるべく種まきをしている段階です。
また近年ホットなAI分野にも注力を示しています。2023年以降、生成AI(Generative AI)や対話型AIエージェントの活用を掲げ、新規サービス開発に着手しているとされています。たとえば社内ハッカソンで生まれたAIチャットボットをサービス化する試みや、ゲーム開発・ライブ配信へのAI実装など、既存事業へのAI活用・新規AIサービス創出の両面で動きがあります。DeNAはモバイルインターネット時代に勝機を掴んだ企業だけに、次なる技術トレンドであるAI・Web3などにもアンテナを張っており、将来的な成長オプションとして投資家からも注目されています。
以上のように、2025年のDeNAはゲーム・スポーツ・ライブ配信という既存事業のテコ入れと、新規事業の開拓を両輪とした成長戦略を描いています。減損処理を経て財務的な足かせが軽くなったこともあり、経営陣は「これからの3年間で構造的・継続的に成長する事業群を形成し、各事業を有意な利益貢献事業に育てる」と表明しています。この中期方針が順調に実行されれば、収益基盤の多角化と安定化が進み、株価の更なる上昇も期待できるでしょう。


2025年の株価下落リスク:高まる期待と不確実要因

明るい材料が多い一方で、現在の株価水準から下振れするリスク要因も押さえておく必要があります。主な懸念事項をいくつか挙げます。

  1. ゲーム事業のヒット依存リスク
    ゲーム業界はヒット作の有無で業績が大きく左右されます。現在は「ポケモンTCGポケット」が好調ですが、ユーザーの飽きや競合タイトル出現で売上が減速すれば業績に直結します。また新作開発が期待はずれに終われば成長シナリオに陰りが出ます。人気IPに頼る戦略は有効な反面、IP使用料負担や版元依存のリスクも伴います。今後予定する大型IPタイトルがヒットしなかった場合、失望売りを招く可能性があります。
  2. ライブ配信・コミュニティ事業の競争
    ライブ配信市場は群雄割拠で、ユーザーの趣味嗜好も刻一刻と変化します。収益性重視に舵を切ったことで一部ユーザー離れが起きる懸念や、競合プラットフォーム(YouTubeやTikTok、Twitch等)との視聴者・配信者争奪戦も激しいです。配信者支援策や課金最適化策が奏功しなければ、業績改善が頭打ちになるリスクがあります。また規制面でも、投げ銭文化に対する社会的な批判や規制強化の可能性もゼロではありません。
  3. スポーツ事業の変動要因
    スポーツ事業はチーム成績や観客動員に収益が左右されます。たとえばベイスターズの成績が低迷すれば観客数や関連売上は減少し、事業利益も縮小するでしょう。2023年は好成績の追い風がありましたが、これが毎年続く保証はありません。また球団経営には選手年俸アップやスタジアム設備投資などコスト増要因も多く、黒字を維持できるかは不透明です。
  4. 減損リスク・投資回収リスク
    直近で大きな減損処理を実施したとはいえ、今後も事業環境の変化によっては再び減損の必要が生じる可能性があります。例えばヘルスケア事業で買収した子会社が期待通り成長しなければ、のれん減損のリスクが残ります。過去には米国事業やSHOWROOMへの出資で痛手を被ったように、新規投資が必ずしも成功するとは限りません。積極的なM&A戦略の裏には、投資回収が進まず再度「のれんの時限爆弾」が爆発するリスクも潜んでいます。
  5. 株価バリュエーションの上昇による調整リスク
    前述の通り、DeNAの株価指標は2024年初時点ではPBR0.8倍台と割安水準でしたが、現在はPBR1.7倍前後まで上昇し割安感は薄れています【16】。株価が2011年以来の高値圏にあることは、既に将来の好材料が相当織り込まれていることを意味します【10】。従って、仮に業績が市場予想を下回った場合や成長戦略の進捗に陰りが見えた場合には、利益確定の売りが出て株価が大きく調整するリスクがある点に注意が必要です。
  6. マクロ経済・外部環境の影響
    広範な事業ポートフォリオを持つDeNAは、国内景気や為替、規制動向など外部環境からの影響も受けます。例えば消費者マインドの冷え込みはゲーム課金や観戦需要の減退につながりかねませんし、海外展開では各国の規制変更や文化的障壁に直面する可能性があります。特に中国市場への展開には政策リスクが付きまとい【11】、当初の計画通りに進出できない可能性もあります。また想定外のパンデミック再来などはスポーツ・ライブ事業に打撃となり得ます。こうしたマクロ要因も、中長期的なリスクとして認識しておくべきでしょう。

現時点(2025年3月5日)の株価指標

最後に、2025年3月5日時点のDeNA株価指標データを整理します(東証終値ベース)。

  • 株価:3,525円(前日比 -74円)【14】
  • 時価総額:約4,305億円【14】(発行済株式数1.221億株)
  • 予想PER(株価収益率):—(※業績予想未開示のため算出不可)【15】
  • 実績PBR(株価純資産倍率):約1.71倍【14】
  • 予想配当利回り:—(※無配。当期は配当予想なし)【14】

※DeNAは2024年3月期に最終赤字となったため2025年3月期の業績予想を「合理的な算出が困難」として開示を見送っています【15】。このためPERは算出されていません。もっとも2025年3月期第3四半期までの純利益が157億円出ていることから、仮に通期で200億円程度の利益水準になるとすれば、現株価3,500円台での予想PERはおよそ20倍前後になる計算です。配当に関しては、直近の赤字決算もあり年間配当は未定(実質無配)となっています。過去には利益水準に応じて1株あたり数十円の配当(2018~2019年頃は年間20~30円程度)を実施していましたが、現状はまず成長投資と業績回復を優先する方針と言えます。


総合評価:再成長期待と株価水準を見極めた投資判断を

DeNAの現在の株価水準は、業績回復と今後の成長期待をかなり織り込んだものです。PBRは1倍台後半まで上昇し、もはや割安とは言えません【16】。株価はリーマンショック後からソーシャルゲーム隆盛期だった2011年以来の高値圏にあり【10】、市場の期待値も相応に高まっています。しかし、その期待を裏付けるだけの業績モメンタムの改善と明確な成長戦略が示されたことも事実です。ゲーム新作のヒットやスポーツ事業の黒字化などポジティブな変化が相次ぎ、かつての輝きを取り戻しつつある点は評価できます。

では今が「買い時」かどうかについてですが、結論から言えば「中長期目線では成長余地ありと判断しつつも、短期的な急騰後だけに慎重なスタンスが望ましい」と言えます。株価が急騰した後だけに一時的な調整リスクもあり、前述したリスク要因(ゲームのヒット持続性や事業多角化の不確実性)も踏まえる必要があります。今後数年で複数の事業が軌道に乗り、2011年前後の最盛期と比肩するような収益水準(例えば営業利益数百億円規模)が見えてくれば、現在の時価総額水準にもさらなる上値余地が生まれるでしょう。しかしそれまでは、業績確認と株価位置を見極めつつ段階的に投資するのが無難かもしれません。

具体的には、2025年3月期決算(5月発表予定)や2026年3月期の業績見通しで、減損を除いた本業ベースでどれだけの利益成長が示せるかがポイントです。ここで市場期待を上回る見通しが出れば、株価はもう一段高を目指す可能性があります。一方で慎重な見通しや成長鈍化が示されれば、株価は高値圏だけに素直に反応し調整するリスクがあります。したがって、現時点で闇雲に飛び付くよりも、四半期ごとの業績進捗や新作ゲームの動向を注視しつつ押し目を拾う戦略が有効と言えるでしょう。

長期的に見れば、DeNAはゲーム・スポーツ・ライブ配信・ヘルスケアと多彩な事業ポートフォリオを持ち、ネット産業の成熟期にあって次の柱を模索している段階です。過去のモバゲー全盛期と比べれば事業領域は広がり、ある程度リスク分散も効いています。財務体質も自己資本比率60%超と健全で、大きな挑戦ができる余力があります。「第二の創業期」とも言えるこの転換期を乗り越え、新たな収益源を開花させられるかが今後の株価を決定付けるでしょう。投資家としては、その可能性に賭ける価値はあるものの、期待先行で割高になり過ぎないかを冷静に見極める姿勢が大切です。現在の株価水準は決して割安ではないため、「成長ストーリーに自信が持てるか」「現経営陣の戦略遂行力を信頼できるか」を軸に投資判断すると良いでしょう。

総括すると、DeNA株は短期的な材料出尽くしには注意しつつも、中長期では再成長局面に入った可能性があります。業績のトレンド転換と多角的な成長戦略を踏まえれば、今後も投資妙味を感じられる銘柄です。適切なリスク管理を行いながら、自身のポートフォリオ戦略に応じたスタンスで向き合うことをお勧めします。


参考資料(出典)

【1】 松井証券 株式市況 – ディー・エヌ・エー(2432)上場来高値・安値
【2】 DeNA Annual Report 2011 – Mobage事業の成長(提供タイトル数と売上増)

【3】 DeNA Annual Report 2011 – 長期ビジョン:世界No.1ソーシャルゲームプラットフォーム目標

【4】 IR Bank – DeNAのPER/PBR推移(2011年3月期PER約14倍、PBR約5.9倍)

【5】 ダイヤモンド・オンライン – 「DeNA、508億円の減損処理で大赤字」(2020年2月)

【6】 株探(日本株・数字で徹底診断) – 「電通、DeNAの大赤字:のれんは時限爆弾」(2020年2月)

【7】 gamebiz – 「DeNA、2024年3月期決算は営業損失282億円…減損損失が要因」(2023年5月)

【8】 note: 決算分析 – 「2025年3月期Q3 DeNA決算を徹底分析」(2025年2月)

【9】 Yahoo!ファイナンス – ディー・エヌ・エー株価(年初来高値4093円〈2025/02/25〉・安値1214円〈2024/02/16〉)

【10】 四季報オンライン – 「ディー・エヌ・エー株、2011年以来の高値圏」

【11】 note: 決算分析 – 「DeNAの今後のゲーム事業戦略(IP活用・海外展開)」

【12】 note: 決算分析 – 「ライブ配信事業の収益化施策とAI活用」

【13】 note: 決算分析 – 「スポーツ事業の成長戦略(観客動員・デジタル・AI活用)」

【14】 Yahoo!ファイナンス – ディー・エヌ・エー株価指標(株価3,525円、PBR1.71倍、配当利回り)

【15】 みんかぶ(株価予想) – 「2025年度業績予想は開示見送り」

【16】 IR Bank – 「DeNAのPBR推移(2024年3月期0.81倍→現在約1.7倍)」


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